味を帶びた處は氷の解けて居る處であるらしい。また白い處があつて其向ふに水色の山が見える。幅の廣くない處と見えて山際の家の形が見樣に由つて見えない事もない。一間程の波が立つた儘で氷つて居るのも二三里の間續いた景色であつた。鏡の樣に氷が解けて光つた處には魚が居るらしく、船に乘つて釣をして居る人もあつた。此樣風《こんなふう》な渚も長く見て居る中にはもう珍らしく無くなつて東海道の興津邊を通る樣な心持になつて居た。六時に着く筈のイルクウツクで一時間停車して乘替を濟ませたのは十一時過ぎであつた。前の晩には金碧《きんぺき》の眩い汽車だと思つたが朝になつて見ると昨日迄のよりは餘程古い。窓も眞中に一つあるだけである。莫斯科《モスコオ》まで後がもう五晩あると思つて溜息を吐いたり、昨日《きのふ》も一昨日《をととひ》も出したのに又子供達に出す葉書を書いたりして居た。六日目に同室の婦人は後方の尼樣の樣な女の居る室に空席が出來たと云つて移つて行つた。汽車は玉の樣な色をした白樺の林の間|許《ばか》りを走つて居る。稀には牛や馬の多く放たれた草原も少しはある。牛乳とか玉子とか草花の束ねたのとかを停車場《ステエシヨン》毎
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