居る。倫敦《ロンドン》行の汽車は別のかと思つて居たのであるが、前と後になつて居る丈で未だ兩方繋がつて居る事に此時初めて氣が附いた。私は其人の傍へ下りて行つて伯林で降りる事をもう一度交渉して見て下さいと頼んだ。紳士は直ぐ來て呉れてボオイにさう云つて呉れたが矢張《やはり》駄目だと云ふ。一日位は好いではないかと云つても好くないと云ふ。私が途方に暮れて居るのを見て紳士は私に、あなたが金の事で心配するのなら何程でも私が出して上ると云つて呉れた。二十圓もあれば好いでせうと云つて私を自身の室へ伴れて行つて二人の令孃に紹介した。私は思ひ掛けない事に遇つて感極まつて涙が零れた。用意に三十圓もお持ちなさいと云つて露貨で出して呉れた。此人の名はマリウス・レツセル氏である。露西亞の役人が旅行券を返しに來たが、令孃が「ヨサノ」と云つて私のも受取つて呉れた。私は今日は晝も夜も何も食べなかつた。獨逸の國境でボオイは私を伴れて行つて十五圓程の増切符を買はせた。マウリス氏は此時も其影を見て又何か事が起つたかと降りて來て呉れた。税關吏は鞄の中は見なかつた。私が心配しながら通つた波蘭《ポオランド》から掛けて獨逸《ドイツ》の
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