近日から自分が此畫室へ油畫の稽古に通はして貰ふ約束などをして、氏と別れてリユクサンブル公園へ入つた。そして、その近くのレスタウランで夕食《ゆうげ》を濟して、また公園へ歸つて來た。一人一人に變化のある、そして氣の利いた點の共通である巴里婦人の服裝を樹蔭の椅子で眺めながら、セエヌ河に煙花《はなび》の上る時の近づくのを待つて居た。七時半頃になつて街へ出たが、まだ飾瓦斯も飾提灯の灯もちらほらよりついて居ない。サン・ミツセルの通に竝んだ露店が皆ぶん廻し風の賭物遊びの店であるのに自分は少し情けない氣がした。河岸へ出るともう煙花の見物人が續續と立て込んで居る。警固の兵士が下士に伴れられて二間おきぐらゐに配置されて立つて居た。河下へ向いて自分等は歩いて居るのである。晝間歩いた向河岸に當る邊は見物するのに好い場所と見えて、人が多い。今夜は橋の上を通る人に立留ることを許されない。また遊覽船を除いた外の船は皆岸に繋がれて居た。振返つて見ると高臺にはもう灯が多くついて瞬間に火の都となつた樣に思はれる。自分等はルウヴル宮の横の橋を渡つて北岸で見物する事にしたが、待つて居るのに丁度程よい場所がない。ふと橋の下から
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