掛けて左右に荷揚場の石だたみが廣く河に突き出て造られてあるのに氣が附いて、良人は其處へ降りようと言つた。降り口の石段が二處に附いて居る。降りて見ると下にはまだ見物人が四五人より來て居ない。併し此處にも兵士が三人許り警固に置かれてあつた。何故だか橋を境にして左の方へは行くことを許されない。水際の石崖に腰を下すと、涼しくて、そして悲しい樣な河風が頬を吹く。十分二十分と經つ中に河岸の上の人數が次第に殖え、自分達の場所を目掛けて降りて來る人も多くなつて行く。積んだ材木の上に初めは腰を掛けて居たのが、何時の間にか其上に上つて坐る人の出來る事なども、東京の夏の夜の河岸の風情と同じ樣である。兩國の川開きであるなどと、自分は興じて良人に言つて居た。九時半頃に、それは極く小さい煙花の一つがノオトル・ダムのお寺の上かと思ふ空に上つた。風でも引いては成らないからもう歸らうと良人が言つて、十時頃に三四發續いて上るのを見てから河岸の上へ上つた。丁度さうした頃から華美な大きい煙花が少しの休みもなしに三ヶ所程から上るやうになつたのである。自分等はまたルウヴル宮の橋の袂《たもと》の人込に交つて空を仰いで居た。四種か五
前へ
次へ
全8ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング