リツクで降りた。この停車場は餘程地の上へ遠いのでエレベエタアで客を上げ下しもするのである。音樂の囃を耳にしながら何方へ行かうかと暫く良人と自分は廣場の端を迷つて居た。聞いた程の人出は未だないが、ルナパアク式の興行物の多いのに目が眩む樣である。高く低く上り下りしながら廻る自動車臺の女七分の客の中に、一人薄絹のロオヴの上に恐ろしい樣な黒の毛皮の長い襟卷をして、片手で緋の大きな花の一輪附いた廣い帽を散すまいと押へた、水際だつて美しい女が一人居た。子供客は作りものの馬や豚に乘せて回轉する興行物に多く集まつてゐる。聞けばミカレエム祭や謝肉祭のやうに人が皆假裝をして歩いたり、コンフエツチと云ふ色紙の細かく切つた物を投げ合つたりする事はこの日の祭にはないのである。自分等はそれからルウヴル行の市街電車に乘つた。初めて自分は二階の席へ乘つたのである。細い曲つた梯子段に足を掛けるや否や動き出すので、其危ないことは云ひ樣もない。唯この蒸暑い日に其處ではどんなに涼しさが得られるか知れないと云ふ氣がしたのと、ルウヴルが終點であるから降りるのに心配がないと思ふからでもあつた。この祭は勞働者を喜ばす祭と云はれて居る
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