ょくげん》に対する羞恥も、全く思料《しりょう》の外に抛擲《ほうてき》してしまいます。
 昔から便宜主義に反対する者は学者と芸術家です。世を挙げて目前の利害を追うに急であっても、せめて学者と芸術家だけは便宜主義の習慣から超越して、常に正義人道の主張者であり擁護者であって欲しいと思います。それでこそ思想家や詩人は人類の指導者たることも出来、進化して止まない人文生活の冒険者たることも出来るのです。
 私は今日まで人道平和の理想を基礎としかつ国際連盟を前提とする講和会議を期待していました。かつてウィルソンの十四カ条を読んだ時から、今度の講和は従来のそれとは全く異って、――戦勝的国家と戦敗的国家との間に、一方は強圧を以て望み、一方は屈辱を以て対するという関係でなく、――連合国側の人民と独墺側の人民とが互に敵味方の国境的、階級的、差別的、尊卑的の感情を忘れ、戦勝者の持つ復讐心《ふくしゅうしん》や侵略思想を綺麗《きれい》さっぱりと抛《なげう》ち、戦敗者の持つ自卑自屈と僻《ひが》みとを一切捨て去って、愛と正義と自由と平等との中に、どの国民もねたみ恨みなくのびのびし[#「のびのびし」に傍点]た文化主義的
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング