に思はれてならなかつた。熊七がもう着く頃であるとふと気が附いた。十一時半である。松に門の前へ出て見て居てくれと云つた。金尾さんを老人にしたやうな、それよりも痩せて穢い背の屈んだ人だとわたしは云つた。その後で番頭の熊七は絵草紙にある孫悟空に生写しであると妹と云つて笑つた昔の日のことが思ひ出されて微笑まずに居られなかつた。遊びに来て居た女の子達に豆人形を出して分けて持たせて帰すと、わたし等も欲しいと七瀬と八峯が云ふので、三つ持つて帰つた土焼の舞子を佐藤さんの分を一つだけ残して跡を遣つてしまつた。麟が帰つて来た。[#「。」は底本では脱落]もう大丈夫だと云ふことである。松が待ちあぐんで家へ入つて来た後から間もなく熊七は来た。
『小い子が悪くてね。』
顔を見るなりこんなことを云つたのを私はその後で直ぐ後悔した。旧い奉公人の誰も彼も去つた跡の駿河屋に一人残つて居る正直な番頭がたまたま店の休業中に東京を見物しようとして来たのであるから。
『嬢《とう》ちやんだすか、可愛らしいおますな。』
と熊七は二人の女の子を見て云つた。
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『お賢うおますな、内ではあまりお
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