らない。八時半頃であらうかとも思ひ、十一時迄かかるのではなからうかとも危まれる。良人の船が門司を出るであらう、光と秀は学校へ行く仕度をして居るであらうが、あの子等とは三時にならなければ逢はれないなどと思ふ。袂へ手を入れると京都の停車場で岩城さんと智《とも》さんに貰つた敷島がめいつた風《ふう》をして三四本出て来た。火を附けて飲みながら、良人の船を下りる時わたしの持つて居た風呂敷には何が入つて居たのであらう、良人よりも大切な物と思つてわたしがそれを抱いて持つて行くと良人は思はなかつたであらうか、而も憎い色の退紅色のあの風呂敷包を海へ捨ててしまへばよかつたなどと思ふ。毀たれは[#「は」はママ]家の後に残つた十畳と四畳の二間に、箪笥や仏壇をごたごたと並べてその中で二人の子にやんちやを云はれながら笑顔をして居た弟夫婦が哀れに思ひ出されもする。熊七が乗つて来た汽車はどの辺に居るであらうなどとも思ふ。食堂へ誰も誰も行く。[#「。」は底本では脱落]通つて行く女が皆團十郎の妹娘の旭梅とか云ふ人の風《う》[#ルビの「う」はママ]つきをして居る。わたしは食べたくないことよりもものを云ひたくない心が多くて弁当
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