日記のうち
與謝野晶子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)智《とも》さん

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)誰も行く。[#「。」は底本では脱落]

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)されども恋は 〔Tru:be〕 なり
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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 十一月十三日
きゆうきゆうと云ふ音が彼方でも此方でもして、何処の寝台ももう畳まれて居るらしいので、わたしも起きないでは悪いやうな気がして蒲団の上に坐つた。けれどまだ実際窓の外は薄暗さうである。富士が見えるかも知れぬと思ふが窓掛を引く気にもならない。身繕ひをして下駄を穿きながら、ボーイに心附けを遣らないでおけば物を云ふ世話がなからうなどと考へて居た。洗面所に入つて髪を結つて来た間に上の寝台もしまはれて、大阪の商人は黄八丈の寝間着の儘で隣に腰掛けて楊枝を使つて居た。日が当つて富士が一体に赤銅色をして居る。頭が痛い。何時この汽車が新橋へ着くのかわたしは知
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