と矛盾するのはそれが道徳として現代の人を律するだけの正確な基礎を持つて居ないからではないでせうか。其矛盾を補綴するために幾多の除外例を設けて、結婚前の不純不貞は問題ではない、再婚後の靈肉の純貞を要求するのであると云ひ、或は戀愛結婚は理想であるが、愛情のない夫婦生活の持續も貞操の一種として強要せねばならぬと云ふ風であれば、貞操道徳の内容ほど不純、不正、不自由、不安なものは無く、私達の生活を裏切つて不幸に導く在來の壓制道徳から一歩も出て居ないものになります。私達はさう云ふ瞹眛なものを安心して自分の生活の自制律にしたくありません。
 私達はまた在來の意味での結婚其物を疑つて居ます。儀式、同棲、戸籍上の屆出と云ふやうな形式關係に重きを置かれる結婚にどれ丈の權威があるでせうか。結婚の前後を以て貞操を區劃し、結婚以前の不品行を寛假するのも道理のないことであり、結婚さへ續けて居れば貞操の全《まつた》いものであるとすることも形式的な解釋です。
 また今日までの社會では結婚して同じ家に住むことが出來ましたけれど、今後は經濟上または其他の事情から戸籍上の屆もせず、同じ家にも住まないで夫婦關係を結ぶ男女が次
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