の中にも静かな諦めが生じると云ふ悲しい歌。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
木《こ》隠れてある星よりも哀れなり広場の上の白き夕月
[#ここで字下げ終わり]
 自分はつつましく木の枝に光の半を被《おほ》ふ風な星に対してよりも、著《あら》はに自らを投げ出して、正しい批評と云ふものがどれほど身に痛くても甘んじて受けようと云ふ勇気の見える白い夕月の方に愛が多く持たれると云ふのである。広場の上と云つて、中空にある月の孤独の清光が誰れの目にも附くのを示してゐる。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
一切を蔑《な》みせんとせしわが憎み君に及びて破れけるかな
[#ここで字下げ終わり]
 一切の現実を否定しよう、蔑視しようとした人生に対する憎悪は、一念恋人に及んだ時に破れてしまつたと云ふのである。この憎悪を自殺の形式で現はさうとしたとまでは解釈せぬ方がよい。ある瞬間の気持ちなのである。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
世界をばひかりの網に入れて引く今朝の裸《はだか》の海の太陽
[#ここで字下げ終わり]
 我我の棲息する陸地をば総《すべ》て皆光明の網を以て手許へ引き寄せようとする海上の日と見える。
前へ 次へ
全48ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング