太陽と云ふ大力のその男は逞《たく》ましい裸体で、健康さうな赤い皮膚を持つてゐると作者は見た。面白い歌である。
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大詰のあとに序幕の来ることただ恋にのみ許さるるかな
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 最後の破綻と見なすべき事があつて、更らにまた初めの甘い相思が帰つて来る。他の事には見難いこの形式を人も見て疑はないのは恋愛にのみ限られた事であると云ふ歌。
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我が涙はかなく土に消ゆべきや否否人と云ふ海に入る
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 寂しく土に沁み込んで行くのを見る外もない自分の涙であらうか、さうは見えるであらうが事実は違つて居る。この涙を受けて呉れるのは海ほど広大な恋人の心であると云つてある。此処で人と使つてある言葉は、恋とか君とか云ふ方が解り易くはあるが、其れでは作者のねらつた重さが現れない。温い人間と云ふものの中の代表者である彼の人と云ふ事はこの一語で云ひ尽くされてゐるやうに私は思ふ。
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巴里にて夜遊びしつつ覚えたるよからぬ癖の嗅《か》ぎ煙草かな
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 作者の居たモン
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