しぬ桃色の薊《あざみ》と云ひて君を憎まん
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心のうづく程の深い恋の印として残る人だから、その人を花と云ふならば薊であると云はう。然《し》かも美くしい桃色の薊だと云つて居よう。憎まうとは愛しようと云ふのである。
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自らの花を惜めるこの蔓《つる》は空に咲かんと攀《よ》ぢ昇り行く
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何時までも花を見せようとせぬ此の蔓草の志す所は天にあるらしく、其処へ達して初めて花を開かうと思つて居ることを、際限なく上へ上へと蔓を伸して行く風なので気が附いたと園の主人は歎息してゐる。その主人は詩人で、宜しい環境に置かれて居ない為めに、創作の興を失つて居ながらも理想だけはずんずん高くなつて行く自分と、この蔓草に共通なもののあるのを感じてゐるのである。
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大いなる救ひ主には逢はねども一人寂しく泣けばなぐさむ
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宗教家の云ふやうな救世主とか、大慈大悲の仏菩薩とかには出逢はないでも、自分は唯《た》だ一人で寂しく泣くことをすると心が和《なご》み、慰めが得られる。泣けば不快な世
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