な》い家鴨と混り、ある時は鵞鳥の仲間の如く自ら振舞つて居ると作者は自身の悲みを述べて居るのである。
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音も無く黒きころもの尼達が過ぎたるあとに残る夕焼
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 仏蘭西か伊太利亜の大寺院の庭を、何等の音響も立てずに、黒い喪衣を著た尼達が一列を作つて通つて行つた。その後に赤い夕焼が西の方に望まれると云ふので、息も出来ぬまでに鬼気が身に迫るやうな歌である。寺院の壁も屋根も木立も黒ずんで居るが其れは尼達の衣ほどの黒ではないから云はないのである。夕焼も余りに広く拡がつて居ないと見る方がよい。
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誰れよりも唯《た》だ逸早く走らんとして躓《つまづ》ける流れ星かな
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 其れはかうである。自分と同じ流星なのであると作者は云ふ。あの星は他の追随するのを厭つて真先きに駈け出さうとして失敗しただけである。安全に以前からの位置を失はずに居る星に比べて彼れに欠陥はなかつた筈《はず》である。これは軽い調子に出来て居て流星を云ふのに適した形がとられてある。
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痛きまで心を刺
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