の魚は捉へかねるかも知れぬが我等の網は他を考へずに彼れへ向けられねばならない、人間の理想は高きに置かなければならぬ、目標とするものは卑《ひく》いものであつてはならぬと云ふ覚悟を語つて居るのである。
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脣に銀の匙など触るる時冷たきもよし智慧の如くに
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 作者は銀の匙《さじ》の冷たい感触が好きだと云つて居る。其れは丁度理智と云ふものが自分の感情の中で目を上げる時のやうな気持で嬉しいのである。併《しか》し知慧と云ふ物の本質は銀の冷たさを常に変へないものであるがと作者は微笑を含んで云つて居る。
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ためらはず宇宙を測る尺度《ものさし》にわれ自らの本能を取る
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 何に由《よ》ることも誰れの学説に頼ることもなしに自分は何の躊躇もなく自分の本能を元にして宇宙を測ることをしようと自負して居る。
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ギリシヤの海に見るべき白鳥が家鴨《あひる》にまじる鵞鳥にまじる
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 不運なこの白鳥は所を得て居ない。ギリシヤの海を遊び場所とせずに穢《きた
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