人の稚気を云つたものであるが、形だけは歌に似たものも歌として通つて行く世の中を諷した作ではなからうか。
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わが前の河のなかばを白くして帆をうつしたる初秋《はつあき》の船
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 作者は岸の家の階上に立つて居た。河は大江でもないが相当な水幅のあるものである。その河を半分まで白くして居ると云ふ所に誇張があるやうで実は河をより狭いものとして、この時の目に美くしく映る一点だけを説いて居るのである。初春初夏と別な音楽である初秋と云ふ言葉がよく利いて居る。
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磯の波うへに真珠《しんじゆ》を綴りたる舞衣《まひぎぬ》のごとまろく拡がる
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 踊り子の真珠の飾りを沢山附けた白絹の裳《も》がぱつと拡がつたやうな渚の波であると云ふのである。波がしらの一つ一つが丁度舞姫などの幅の広い裾ほどの大きさを我我に見せることはよくあるが、この作者にかう云はれて初めて成程と気附く我我である。
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光る魚かの太陽は難くとも空に向ひて網は打たまし
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 日と云ふ光
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