が新しく切りて読む本のなかにも笑める君が目
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 海を越えて仏蘭西の本の届いた場合であらう。紙切りで一方も二方も切りつつあるのは詩集か何かの本であるが、その中に遠い国で別れて来た恋人の目が笑みを含んで自分を見て居るやうに思はれるとはをかしいものであると云ふ歌。不思議と云ふやうな大袈裟な言葉を最初に使つて置いて、淡い戯れのやうで然《し》かも心から消し難い昔の恋人を軽く思ひ出した作である。
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狂ほしき恋の最後に誘《さそ》はずば止まじとすらん麝香撫子《じやかうなでしこ》
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 カアネイションであるが、是れは現在の花ではない。前の歌の成つたのと同時に囘想した往事の一場面ではなかつたであらうか。心の上でだけ愛し合つて居たこの男女を到る処にまで到らしめないではおかないやうな劇《はげ》しい刺激を含んだ香のある撫子であると云ふ歌。
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べにがらと黄土《わうど》を塗りて手軽くも楊貴妃とする支那の人形
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 大唐の楊太真も簡単な顔料を泥に塗つたもので現し得たやうに思つて居る隣
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