させられた。捉へ難いのを捉へ得た悦《よろこ》びにも、また手から逸してしまつた時の失望にもさうであつたと云ふので、美くしいと云はれる恋の本体を語つて居るのである。この歌などに作者の独特のよさを見るべきであらう。
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人の身の寂しき時は空を見て梢《こずゑ》も物を待つけしきかな
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是れは少し言葉が省略されてあるからよく読まねばならない。人間の寂しさ[#「寂しさ」は底本では「寂し」]を深く覚える日には、目の前の木立の梢なども自分の如く、寂しさに堪へ切れない、奇蹟でも現れて来るのを待つ外はないと天を遥かに眺めて居るものとより見えないと云ふのである。
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たそがれの青き光に半面を空に向けつつ泣ける石像《せきざう》
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青味のある夕明りの射《さ》して来る方へ半面を向けて居る石像は泣いて居ると云つたのであつて、その如く見えると云はず、其れであると云ふ手法を用ひたのである。女の像であることも説明なしに悟らしめたものである。私は佳い歌だと思ふ。
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不思議なりわ
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