れも自分のやうな焦慮はして居ないが自分には是れが苦しいと云ふのである。
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やうやくに自らを知るかく云へば人あやまりて驕慢《けうまん》と聞く
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 此頃はやつと自分と云ふものが解つたやうな心境を得て居る。是れを自分は歌つて居るのであるがまま驕慢であるかのやうな誤解を受けると云ふのであつて、其事が並並の自覚と云ふものとは変つたものであることをも云はうとしたのである。
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白がちの桃色をして蓼の花涙ののちの頬《ほ》の如く立つ
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 細かに見れば蓼《たで》の花は白混りの薄紅であるが、受ける感じは白がちの時色《ときいろ》である。作者は細かに見て居ないのではなく、女の顔の涙の後の色の斑《まだ》らな薄紅の美を聯想したことで其れを現して居るのである。野の蓼の弱弱しい、然《し》かも若さの溢れたやうな姿は作者の好んだ所である。
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蝶を見て恋を思ひぬその蝶を捉へつるにも逃がしつるにも
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 目前に現れた蝶に由《よ》つて自分は恋愛と云ふものを考へ
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