上へ雪が降つて居るのではなくて、是れは暖炉の縁などへ雪の塊りが置かれて居て、じいじいと音がして解けて行く趣きである。私達が富士見町に居た初めの頃に、小さい庭の雪を集めて来て私はよく其れで物の形を彫つて遊んだ。炬燵の上でしたことであつた。人の顔などを彫つて気に入つた物の出来た時に、其物が当然解けて行く雪であることを思つて私の歎く愚かさからヒントを得たのかも知れない。
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太陽よおなじ処《ところ》に留まれと云ふに等しき願ひなるかな
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去り行く青春を惜《おし》む心である。これは空中の日の歩みを一つの所に留《とど》めて動くなと望むに斉《ひと》しい気持であると自嘲した。仮りて云ふものも最も適切なものであつたことが強い効果を挙げ得たのであると私は思ふ。また全体の調子ものんびりとして居て作者の恐れて居る初老の面影などは見えて居ない。
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ひんがしの国には住めど人並《ひとなみ》に心の国を持たぬ寂しさ
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住して居る所は確かに極東の日本であるが、自分の心には安住の国がない。他の人人を見ると誰
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