[#ここで字下げ終わり]
 自分が何故に無視されてゐなければならぬかを世間に対して問つてやりたい心持ちも、何時となくどうでも好い気になつた、従つて憎みも悲みも忘れた今の心境は静かである。この空虚は愛すべきものであると云ふ歌。もとより是れは作者自身だけが空虚と呼んでゐる空虚なのである。
[#ここから1字下げ、23字詰め]
うきことは思はぬ如く馳せながら薔薇を散らしぬ曲馬の女
[#ここで字下げ終わり]
 人間である以上、然《し》かもあの境遇にゐる以上持つてゐない筈《はず》のない悲みを忘れたやうに感じないやうに馬上から薔薇の花を撒いて居る曲馬乗りの女よと云つてある。是れも作者は日本で見た曲馬ではなく、郷愁を抱きながら巴里の旅先で見た曲馬らしい。
[#ここから1字下げ、23字詰め]
その中に白き孔雀の誇りもて長く引きたる夕ごろもかな
[#ここで字下げ終わり]
 仏蘭西座の廊下を往来する貴婦人達の中の特に目立つ一人を作者は歌つたのであるが、そんな場所でなく、或る大邸宅の夜会場で思ふ人が誰れよりも素ばらしく、白い衣装を著けて現れて来たやうな解釈が出来ないこともない。作者が巴里に居た頃の女の夜の
前へ 次へ
全48ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング