た作である。言葉を態《わざ》と省略して頸の形だけを云つて女の気もちを其れに托してある。
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君により初めて明日の歌を聞く凍れる中の春のおとづれ
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 吉田精一氏の歌集春の口笛の序に詠まれた歌の一つである。この作者に由《よ》つて自分は初めて未来の世界を見ることが出来、明日の詩を聞くことが出来た。自分達の周囲は今|総《すべ》て凍《い》て附いてしまつてゐる。こんな時に春の訪れを持つて来てくれた歌集であるから嬉しいと云ふのであつて、集の名の笛を離れずに所信が叙べられてある。
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にはかにも松を通して朱をながす夕日の中の街道の雨
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 夏の変調な天気らしい。東海道の藤沢辺の街道を少し奥へ入つた家から作者は見て居るやうである。古い並木の松であるから大木が列をなしてゐて、足柄辺りへ入る日が赤い夕焼を作つてゐる空が背景になつて居る。この街道の上に今雨が降つて居るのである。相当に烈《はげ》しい雨らしく思はれる。
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何故と世に問ふことを忘れたるうつろの心しづかなるか
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