断たれた世界へ身を置くことになると云ふ満足がある。気に入らぬ一切の物に背を向けて遺ることの出来る快感を感じるのはこの時であると仄《ほの》かながらも覚えると云ふ歌。
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かの隅になにがし立ちて叫べども振る手のみ見ゆ群衆の上
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 一方の隅に名士の某が立ち高い声を放つて演説をしてゐるやうであるが、何も聞《きこ》えるものでない、大衆の居る上に振る手だけが滑稽に見えるだけであると云ふのであるが、議論をする事を嫌つた後年の作者は、さうしたものは皆無用な精力の浪費であると云つて、若い人は創作をのみ熱心にすべきであると説いて居た其の心もちと取るべきである。
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拳《けん》を打つ二人の男たやすげにすべてを拒む形するかな
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 拳と云ふものを目に見ない人には一寸《ちよつと》解り難い歌かも知れぬ。手の指を種種な形にして相手と亘《わた》り合ふのであるが、其の中に二つの手を前向けに立てて突出す形がある。指の二三本で変つた形をして居る時よりもこの時の形が派手で目に附き易い。形は物を拒否する姿になつてゐる。
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