。両岸の杉山の中に銀泥を刷《は》いた帯をほのかに引いて進んで行く川を作者は美くしいと眺めたのである。四月の初めで春雨も降つてゐた日のささ濁りした流れであつた。
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洞門の出口にわれを待つ友がたそがれに吹く青き鳥笛
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 是れは同じ時に塔の沢から湯本の玉簾の滝を見に出かけた途中で、洞門の出口に友人の西村伊作氏が背を寄せて、土産物店で買つて来た笛を吹いて居たのであつた。黄昏《たそが》れて行く山の中の寂しさがよく現れて居ると思ふ。然《し》かも秋でも冬でもない時の寂しさが見える。青いと音の感じを云つた言葉と、我れを待つと云ふ友情とでしめやかな春を伝へてゐるのである。
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桃色の明りの中に白《しろ》を著て少女《をとめ》の如く走《わ》しりくる船
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 白を著てと云ふ所まで読んで、しののめの空の下を来る少女を云ふ歌かと思ふと、さうでなく、そんな風にして白い色の船が此方へ来ると云ふのである。速力の早い小舟が生き生きとした力を現して出て来たのである。夏の歌かと思はれる。
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