ひの如き水色の壺
[#ここで字下げ終わり]
 室の一隅に水色をした陶器の壺が置かれてある。じつと耳を澄して常人の耳にはまだ入らない音をも聞かうとして居る。敏感なそしてうす無味の悪い盲目の人の座つた姿が思はれる壺であると云ふ歌。何となく寒気を覚える程確実に物が掴んである。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
行く水の上に書きたる夢なれど我が力には消しがたきかな
[#ここで字下げ終わり]
 行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけりと云ふ古今集の歌の意を受けて、さうした無駄な思ひかは知らぬが、自分の意志の力ではこの空想を壊してしまふことは出来ないと歎いた歌で、恋歌とせずに、他から見ては突飛な希望と云ふやうなものを胸に畳んでゐることを云つたものと解釈して置く方が妥当なやうである。
[#ここから2字下げ、22字詰め]
銀泥《ぎんでい》の帯を仄《ほの》かに引きて去る杉生の底の一すぢの川
[#ここで字下げ終わり]
 箱根の歌である。箱根へは何度となく遊んだ作者であるが、この時の吟行は大正十年かと記憶する。塔の沢と底倉で各一泊したのであつた。強羅から宮の下へ下つて来て見た早川の景色かと思ふ
前へ 次へ
全48ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング