げ終わり]
 大きい傘の拡げられた刹那にばらばらと降りかかる雨が上に跳つてゐるやうな快感が覚えられた。雨も新味と変化とを喜ぶ自分達の心と同じであると云つてある。之れは夏の日の雨らしい。寒いことなどは思はれない。
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世の隅に涼しき目をば一つ持ち静かにあらんことをのみ思ふ
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 善悪と美醜のけぢめに正しい判断力を備へた自分を守つて、世の表面などには出ず、人目につかぬ片隅で静かな存在としてあることが幸福であらうとばかりこの頃は希《ねが》はれる自分であると云ふ歌。
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時の波絶えず寄せ来て人の身をはてなき沙に埋めんとする
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 止む間もなく押し寄せてくる時と云ふ波はこの世のどの人間をも寂しい死の沙に埋めようとして居る。こんな戦慄をする時のある作者であつた。私は作者が寂しい無色の沙へ永久に埋歿されたとは思はない。私が故人を思ふだけの心でさへ百彩の錦をなして居ると信じて居る。
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猶しばし昨日の夢にかかはりぬ覚めぎはの目の甘くおもたく
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