かを起さないでは居られないやうな鬱勃《うつぼつ》たる不平がこの歌には見える。
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目を遣れば世の恋よりも何よりも燃えて待つなり片隅の薔薇
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ふと室の一隅を見ると云ふ言葉で、その時まで作者は或る思ひに懊悩してゐたことが解る。其処には血の燃え立つ色を見せた薔薇の花があつた。世と云ふのは世の人間のと云ふ意である。其れは自分が対象にしてゐる恋人の生温るさには似ない熱意を見せて自分の近づくのを待つ薔薇ではないかと云ふのと同時に作者は溜息を洩《もら》した。待つと云ふ言葉も逢ひたさを云ひ遣つた人の返事が思ふやうな物でなかつた為めに出た言葉ではあるまいか。何よりもはその外の一切の物よりもと云ふのであるが大して其れを強くは云つて居ない。
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この国に呟《つぶや》くことをふと愧《は》ぢぬ冬もめでたき瑠璃《るり》の空かな
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日本に居て猶《なほ》不足がましく歎息などをしてゐる自分を見出して愧ぢた。冬と云ふのにこの冴えた瑠璃色の空はどうであらう。巴里の冬は毎日陰鬱に曇つて居たではないか、東方の恵ま
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