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これも象徴歌である。ソビエツトの都会を見たもののやうに云つてあるが、作者の意はあの下品な騒《さわが》しい物音まではまだ辛抱も出来るが、誰れ一人変つた服装をした者のない労働服ばかりの人の群を眺めて居なければならないことは実に不幸であると云つて、文学の平俗化、多衆化を悲しんでゐる。
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憂きときは薔薇をば嗅ぎてうち振りぬ胸に十字を描《か》く僧の如
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悲しい気もちの起る時は薔薇を嗅いで、其れから薔薇の花を手で振つて見るのが自分の癖である。事に触れては天主の名を唱へて十字を胸に描く宗教家の如く、これは最も神聖な気分でしてゐることであると云ふ歌。薔薇であるために、恋人のことは云つてないがこの花を嗅いで、僧が神の幻を追ふやうに作者の思つて居るものは若い美くしい芳しいものの面影に違ひない。
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エルナニの恋のうたげに恐しき死の角笛《つのぶえ》の響きくるかな
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ユウゴウのエルナニと云ふ劇の演ぜられるのを私も一度故人と一所に仏蘭西座で見物した。作者は其れが好き
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