なく、其れよりは細くて優しい桜のもみじであるやうに思はれる。美くしいとは云つてないが、其れは十分に読者の胸へ伝へられてゐる。
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わが機《はた》に上《のぼ》せて織れば寂しさも天衣《てんい》の料《れう》となりぬべきかな
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 詩人である自分が心に摂取すれば、普通人には苦痛であるべき寂寥も勝れた創作を成就させる一分の用に立たせることが出来ると云ふのであつて、これには作者の自信が十分に盛られてある。
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啼きに啼くあさまし長しかまびすし短き歌を知らぬ蝉かな
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 何と何時までも啼き続ける蝉であらう。何と云ふ饒舌な蝉であらう、やかましい、うるさい、彼等は自分等が僅かな三十一文字で複雑な感情を簡潔に余すなく述べるやうな技術を持たないのである。憐むべき蝉だと云つてある。蝉はそんなものであるが、その声を聞く作者の心には無駄な文字を多く費すだけで、効果の少い拙い長詩を作る人達を歯がゆく思ふ所があつたのであらう。
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騒音は猶しのぶべし一やうに労働服を著たるさびしさ
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