ふものの相手が幾分甘く見られて居ることは歌の調子に見える。
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堪へがたし思ひの火より救へよと我がよぶ時に君もまた呼ぶ
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情熱の火に焼かれつつある堪へ切れない心を救つてくれと最後の悲鳴を上げた時に、同じ言葉が恋人の口からも叫ばれたと云ふのである。呼ぶと云ひ、悲鳴を上げると云つても他の世界へ向つてして居るのではなく、二人だけの世界に於てであることは云ふまでもない。これはこの作者持まへの綺麗な出来上りを避けて、態《わざ》と調子構はずに云つてある所などは前の歌の技巧とは正反対である。
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溢るるは唯《た》だにひと時おほかたは醜き石をあらはせる川
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是れは象徴歌である。若若しい感情が豊富に胸から溢れ出して、良い芸術が幾つでもやすやすと出来上り、自らを満足させることは、雨後の出水時にだけ見ることの出来る山川の勢ひよさで、幾日も続くことではない。後は涸れて堅くなつた頭脳を苦苦しく思ふばかりである。石ばかりがごろごろとした醜い山の渓の其れのやうにと自嘲した意。
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