してそのように低級野蛮な盲目的感情を固執して羞恥《しゅうち》を感じないのでしょうか。現在の戦争にしても、常識を以てしては欧洲の先進文明国の間に到底起りそうにないことであったのですが、それが数年にわたって継続し科学を悪用した新式の強暴な武器を以て人と人とが互に殺し合いながら、まだその平和回復の時機さえ予想されないというのは、要するに権勢を独占して支配者の位地に立とうとする男子の専制欲が第一の動機となっているのです。盲目的感情は婦人の所有する所といわれておりますけれども、婦人の感情的妄動は自己と少数の周囲とを禍《わざわい》するに過ぎませんが、男子のそれは幾百万の人類を殺傷し、幾百億の財力を消耗し、幾千年来の文明を一朝にして破壊します。たといその害の小《ちいさ》いものでも直接たちどころに一国の利害|休戚《きゅうせき》に関係します。婦人の盲目的感情がそういう大きな禍を人間生活に加えた例は世界の歴史に全く見当らないことを断言してよいと思います。寺内、後藤二氏の演説はロイド・ジョウジやウィルソンの演説に比べるまでもなく、一見して何という奥行の乏しいかつ調子の野卑なものであるでしょう。現代の政論には
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