せん。これまでのように代議政治の意義を徹底して知るに到らなかった国民は、候補者の依頼に由って漫然と選挙するだけで、選挙民として何故に選挙するのか、代議士として選挙民の何事を代表するのかを知らず、固《もと》より代議士の政見の如何《いかん》などは選挙民の問題でなく、また代議士は当選さえしてしまえば何の責任をも自分の言動の上に負うのでなく、選挙が済めば、代議士と選挙民とは鷄《にわとり》に孵化《ふか》された家鴨《あひる》の雛《ひな》が水に入って帰らないように、忽《たちま》ちに代議士は権力階級へ、選挙民は屈従階級へと分れて千里の距離を生じ、政治的の関係は全く同じ根から出た葉と花との親密を失ってしまうことが習慣となっていました。
 私はこの度の総選挙に国民全体が投票権の尊重すべきことを十分に自覚して、これを機会に立憲国の選挙民たるに愧《は》じないいわゆる神聖選挙の紀元を開かれることを期待しております。欧洲の昔に「愚かなる国民の上には苛《から》き政府あり」という諺《ことわざ》があるといいます。我国には専制的な政府ばかりでなく、暴横無恥な政党までが存在しております。日本人は最早彼らの藩閥と党閥との少数
前へ 次へ
全16ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング