のは前代の文明の中から今日にも役に立つ純粋な美点だけを伝えて、其上に今日の生活が生んだ新しい美点を加へようとするので、自然、前代の用語では現代の文明が盛り切れなくなつて、是非とも新しい用語や新しい形式が必要になる。それを覚らない人は不知不識《しらずしらず》現代の生活から孤立して、偏したり、僻んだり、なんでも新しい世態に難癖《なんくせ》を附けたりする保守気質の人になつて仕舞ふ。忠孝道徳や賢母良妻主義の教育やで押通さうとする人などが矢張それである。忠孝も賢母良妻も其必要なことは今の人に取つて解り切つたことである。併し今の人はそれのみでは生活が出来ない、其上に世界の文明と呼吸《いき》の合ふいろんな思想を内容とした生活をして居るから、この現代生活の律動を象徴する標語として忠孝や賢母良妻を応用しようとするのは非常に不十分なのである。
自分はこんな事を考へながら顔を洗つて、朝の食事を子供等と一所に済ませた。例の様に麺包と珈琲だけで朝の食事を別に座敷で済ませた良人は、戸が開けられないので電燈を点けた儘十種に近い新聞を読んで居る。其側へ行つて自分も二三の新聞を読んだ。欧州には今戦争と云ふ怖しい台風が
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