成立して、さて結婚という社会的法律的形式の一段に及んで、相手の男子が秘密にしていた花柳病のあるために健康診断書の提示を拒んだら、平塚さんたちは、法律の冷かにかつ峻厳に命ずる通り、その天にも地にも二つとない既成の尊貴な恋愛を即時に破棄されるつもりでしょうか。
私の体験を根拠としていえば、恋愛は高く遙かに政治や、法律や、科学や、論理の彼方《かなた》にあります。熱愛する一対の男女の中に健康診断書の有無が何であろうぞ。あるいは法律に由って恋愛の完成を擁護されることはあっても、如何なる場合にも恋愛が法律に由って拒まるべき性質のものではありません。平塚さんたちが花柳病と恋愛とを相殺されるほど、恋愛について浅薄な考を持たれると思われませんから、恐らくこの請願は、恋愛を無視した因習的結婚を認容した範囲において提出されるものであろうと想像する次第です。そうであるなら、この請願は平塚さんや私たちの恋愛結婚の主張と矛盾して、非常に妥協的なものとなります。この点はどう考えたら好いのでしょうか。
それから、私の今一つの疑問は、結婚について法律上の形式を無用視し、法律に由って保障される結婚の外に立って「共同生
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