新婦人協会の請願運動
与謝野晶子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)引込思案《ひっこみじあん》
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去年の十一月に大阪朝日新聞社が主催となって関西婦人連合大会を大阪に開いたことは、多数の保守的な婦人団体を現代的に覚醒させるために、確かに一つの好い刺激になったと思います。我国の婦人とても、天賦的に引込思案《ひっこみじあん》な者ではなく、男子専権の社会に圧迫されて、自主的に行動する意気を麻痺《まひ》し、もしくはわざと遠慮気兼をして、万事に控目な依頼主義を取っているに過ぎないのですから、社会の有力な代表者である新聞社などがそういう風に保障と激励とを寄せられるならば、それに引出されて我国の婦人も必ず大に動き初めるに違いありません。現に大阪朝日新聞社に由って連合大会が催されて以来、関西の各地において婦人の新運動が続々と起りつつあるのを見受けます。名古屋市の教養婦人会が婦人の文化講座を開いたことなどもその一例です。
また右の大阪朝日新聞社の大会へ東京から出席された平塚らいちょう女史が、帰来直ちに新婦人協会の創立を発表し、主として全国婦人の連合運動を企図されるに到ったことなども、我国の婦人運動が茲《ここ》に新紀元を画して、初めて実際に現代的意義を持つようになった表徴であろうと思います。この外に、青年婦人中の博識家である山田わか女史が近く『婦人と新社会』と題する婦人雑誌を発行されるという事をも確聞します。この三、四年来、その精緻《せいち》な社会主義的方面の知識と、改革者的な熱誠とを文筆に傾倒して、最も率直に我国の急進派婦人を代表される山川菊栄《やまかわきくえ》夫人が、社会の重望の中に今後も一層活動されるであろうことは言うまでもなく、国際労働会議より帰られた田中孝子《たなかたかこ》夫人も、益々《ますます》婦人労働問題のために摯実《しじつ》な研究と努力とを続けられる覚悟だということです。あれやこれやを湊合《そうごう》して、私は例の楽観的に考えると、どうやら日本婦人が自己と環境との改造を目標として、本質的にかつ積極的に行動する機運が到来したように思われます。私たち一般婦人はそれらの先駆者たちに指導されながら、この女子新興の機運を助長すると共に、それを各自の生活に善用しなければなりません。
平塚さんを首唱者として新婦人協会が成立したということについて、私は心の底から多大の喜びを感じました。それは最近の婦人会における第一の吉報だと思います。日本婦人の総動員はいろいろの意味で非常に必要です。首唱者としても、統率者としても絶好の適任者を得ました。私は平塚さんが進んで自らこの重任に当られた熱誠と勇気とに敬服します。私はその事を聞くや否や、早速新聞雑誌を通じて平塚さんに対する感謝を書いて置きましたから、此処《ここ》にはそれを繰返さず置きます。
平塚さんから協会の創立された通知を受けて以来、私が最も真面目に注視せずにおられなかったことは、協会の第一著の運動が如何なる問題に由って始められるかということでした。私は窃《ひそ》かに、それが現下の問題となっている普通選挙の要求と関連して、女子の参政権をも認容した普通選挙運動の目標の下に、全国の婦人団体を糾合《きゅうごう》されることであろうと期待していました。しかるに私の期待は逸《そ》れて、平塚さんたちは「治安警察法第五条の修正」と「花柳《かりゅう》病男子の結婚制限」という二種の請願を貴衆両院へ提出することを以て第一著の運動とされるのでした。私はそれに対して多少の遺憾があります。私が此処《ここ》にそれを率直に述べるのは、固《もと》より新婦人協会の事業を、首唱者たる平塚さんたちのみの責任とせずに、日本婦人全体の連帯責任と見て、私たちもその責任を快く分担の出来るように、協会の事業をなるべく合理的に照準して欲しいと思うからです。
女史が政社に加入し政談集会に出入することの自由を要求するために、治安警察法第五条の撤廃を請願することは議論の余地がありません。この問題は私も数年前から機会のあるたびに述べています。しかしこれは男女の性別を問わない所の普通選挙さえ実現するなら、おのずから解決されてしまうべき問題です。平塚さんはこの請願の理由を説明して「私どもはこれを以て近き将来において著手しようとする婦人参政権要求運動の下準備ぐらいに考えている」といわれていますが、私にはかえって順序が顛倒されているように思われます。人ごとに見る所を異にしているからといわれるならそれまでですが、私は政界の急進分子が珍しくも男女平等主義の普通選挙を唱え初めたのに呼応して、なぜこの好い機会に協会の主唱に成る婦人団体総連合の勢力を以て婦
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