丘の下には
多勢《おほぜい》の人間が眠つてゐる。
もう、夜《よる》では無い、
太陽は中天《ちうてん》に近づいてゐる。
登つて行《ゆ》く人、行《ゆ》く人が
丘の上に顔を出し、
胸を張り、両手を拡げて、
「兄弟よ」と呼ばはる時、
さつと血煙《ちけぶり》がその胸から立つ、
そして直《す》ぐ其《その》人は後ろに倒れる。
陰険な狙撃《そげき》の矢に中《あた》つたのである。
次の人も、また次の人も、
みんな丘の上で同じ様に倒れる。
丘の下には
眠つてゐる人ばかりで無い、
目を覚《さま》した人人《ひとびと》の中から
丘に登る予言者と
その予言者を殺す反逆者とが現れる。
多勢《おほぜい》の人間は何《なに》も知らずにゐる。
もう、夜《よる》では無い、
太陽は中天《ちうてん》に近づいて光つてゐる。
詩に就《つ》いての願《ねがひ》
詩は実感の彫刻、
行《ぎやう》と行《ぎやう》、
節《せつ》と節《せつ》との間《あひだ》に陰影《かげ》がある。
細部を包む
陰影《いんえい》は奥行《おくゆき》、
それの深さに比例して、
自然の肉の片はしが
くつきりと
行《ぎやう》の表《おもて》に浮き上がれ。
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