が居ねえもんなら、
おめえの財産なんか
遠《とほ》の昔に
近所から分《わ》け取《ど》りにされて居たんだ。
その恩返《おんかへ》しをしろ」と云《い》つた。
なんぼよいよいでも、
隣の爺《おやぢ》には、性根《しやうね》がある。
あるだけの智慧をしぼつて
甚六の言ひ掛《がか》りを拒《こば》んだ。
押問答が長引いて、
二人《ふたり》の声が段段と荒くなつた。
文句に詰つた甚六が
得意な最後の手を出して、
拳《こぶし》を振上げ相《さう》になつた時、
大勢の甚六の兄弟が
がやがやと寄つて来た。
「腰が弱《よ》ゑいなあ、兄貴、」
「脅《おど》しが足りねえなあ、兄貴、」
「もつと相手をいぢめねえ、」
「なぜ、いきなり刄物《はもの》を突き附《つ》けねえんだ、」
「文句なんか要《い》らねえ、腕づくだ、腕づくだ、」
こんなことを口口《くちぐち》に云《い》つて、
兄を罵《のゝし》る兄弟ばかりである、
兄を励ます兄弟ばかりである。
ほんとに兄を思ふ心から、
なぜ無法な言ひ掛《がか》りなんかしたんだと
兄の最初の発言を
咎《とが》める兄弟とては一人《ひとり》も居なかつた。
おお、怖《おそ》ろしい此処《ここ》の家《い
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