た者がある。
「泥坊が嚔《くしやみ》をしたんですわ、」
大洋の底のやうな六時間の沈黙が破れて、
二人《ふたり》の緊張が笑ひに融《と》けた。
こんなに滑稽《こつけい》な偶然と見える必然が世界にある。
砂
川原《かはら》[#ルビの「かはら」は底本では「かははら」]の底の底の価《あたひ》なき
砂の身なれば人|採《と》らず、
風の吹く日は塵《ちり》となり
雨の降る日は泥となり、
人、牛、馬の踏むままに
圧《お》しひしがれて世にありぬ。
稀《まれ》に川原《かはら》のそこ、かしこ、
れんげ、たんぽぽ、月見草《つきみさう》、
ひるがほ、野菊、白百合《しろゆり》の
むらむらと咲く日もあれど、
流れて寄れる種なれば
やがて流れて跡も無し。
怖ろしい兄弟
ここの家《いへ》の名前人《なまへにん》は
総領の甚六がなつてゐる。
欲ばかり勝《か》つて
思ひやりの欠けてゐる兄だ。
不意に、隣の家《うち》へ押しかけて、
庇《かば》ひ手のない老人《としより》の
半身不随の亭主に、
「きさまの持つてゐる
目ぼしい地所や家蔵《いへくら》を寄越《よこ》せ。
おらは不断おめえに恩を掛けてゐる。
おら
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