……と云《い》ふ音がまだ耳にある。
小猫
小猫、小猫、かはいい小猫、
坐《すわ》れば小《ちさ》く、まんまろく、
歩けばほつそりと、
美《うつ》くしい、真《ま》つ白な小猫、
生れて二月《ふたつき》たたぬ間《ま》に
孤蝶《こてふ》様のお宅から
わたしのうちへ来た小猫。
子供達が皆寝て、夜《よ》が更けた。
一人《ひとり》わたしが蚊に食はれ
書斎で黙つて物を書けば、
小猫よ、おまへは寂《さび》しいか、
わたしの後ろに身を擦り寄せて
小娘のやうな声で啼《な》く。
こんな時、
先《さき》の主人《あるじ》はお優しく
そつとおまへを膝《ひざ》に載せ
どんなにお撫《な》でになつたことであろ。
けれど、小猫よ、
わたしはおまへを抱く間《ま》がない、
わたしは今夜
もうあと十枚書かねばならんのよ。
夜《よ》がますます更けて、
午前二時の上野の鐘が幽《かす》かに鳴る。
そして、何《なに》にじやれるのか、
小猫の首の鈴が
次の間《ま》で鳴つてゐる。
記事一章
今は
(私は正しく書いて置く、)
一千九百十六年一月十日の
午前二時|四十《しじふ》二分。
そして此時《このとき》から十
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