揺《ゆす》れる
細い緑の若竹《わかたけ》のやうに。
今夜、私の心に詩がある。
私はじつと其《その》詩を抑《おさ》へる。
魚《さかな》はいよいよ跳《は》ねる。
月はいよいよ奔《はし》る。
竹はいよいよ揺《ゆす》れる。
苦しい此時《このとき》、
楽しい此時《このとき》。
蜂
夕立の風
軒《のき》の簾《すだれ》を動かし、
部屋の内《うち》暗くなりて
片時《かたとき》涼しければ、
我は物を書きさし、
空を見上げて、雨を聴きぬ。
書きさせる紙の上に
何時《いつ》しか来《きた》りし蜂《はち》一つ。
よき姿の蜂《はち》よ、
腰の細さ糸に似て、
身に塗れる金《きん》は
何《なに》の花粉よりか成れる。
好《よ》し、我が文字の上を
蜂《はち》の匍《は》ふに任せん。
わが匂《にほ》ひなき歌は
素枯《すが》れし花に等し、
せめて弥生《やよひ》の名残《なごり》を求めて
蜂《はち》の匍《は》ふに任せん。
わが庭
おお咲いた、ダリヤの花が咲いた、
明るい朱《しゆ》に、紫に、冴《さ》えた黄金《きん》に。
破れた障子をすつかりお開《あ》け、
思ひがけない幸福《しあはせ》が来たやうに。
前へ
次へ
全250ページ中159ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング