救はれる、
沈滞と怠慢とから、
安易と姑息《こそく》とから、
小さな怨嗟《ゑんさ》から、
見苦《みぐるし》い自己忘却から、
サンチマンタルから、
無用の論議から……
おお、密雲の近づく中の
霹靂《へきれき》の一音《いちおん》、
それが振鈴《しんれい》だ、
見よ、今、
赫灼《かくしやく》たる夏の女王《ぢよわう》の登場。


    五月の歌

ああ、五月《ごぐわつ》、
そなたは、美《うつ》くしい
季節の処女《をとめ》
太陽の花嫁。

そなたの為《た》めに、
野は躑躅《つゝじ》を、
水は杜若《かきつばた》を、
森は藤《ふぢ》を捧《さゝ》げる。

微風《そよかぜ》も、蜜蜂《みつばち》も、
はた杜鵑《ほとゝぎす》も、
唯《た》だそなたを
讃《ほ》めて歌ふ。

五月《ごぐわつ》よ、そなたの
桃色の微笑《ほゝゑみ》は
木蔭《こかげ》の薔薇《ばら》の
花の上にもある。


    五月|礼讃《らいさん》

五月《ごぐわつ》は好《よ》い月、花の月、
芽の月、香《か》の月、色《いろ》の月、
ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、
つつじ、芍薬《しやくやく》、藤《ふぢ》、蘇枋《すはう》、
リラ、チユウリツプ、罌粟
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