言葉
  闇に釣る船
  灰色の一路
  厭な日
  風の夜
  小猫
  記事一章
  砂
  怖ろしい兄弟
  駄獣の群
  或年の夏
  三等局集配人
  壁
  不思議の街
  女は掠奪者
  冷たい夕飯
  真珠貝
  浪のうねり
  夏の歌
  五月の歌
  ロダン夫人の賜へる花束
  暑き日の午前
  隠れ蓑
  夜の机
  きちがひ茄子
  花子の歌四章(童謡)
  手の上の花
  一隅にて
  午前三時の鐘
  或日の寂しさ
[#ここで段組終わり]
[#地から3字上げ]目次 終

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[#地付き]與謝野晶子

   晶子詩篇全集

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   雲片片
      (小曲五十六章)

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    草と人

如何《いか》なれば草よ、
風吹けば一方《ひとかた》に寄る。
人の身は然《しか》らず、
己《おの》が心の向き向きに寄る。
何《なに》か善《よ》き、何《なに》か悪《あ》しき、
知らず、唯《た》だ人は向き向き。


    鼠

わが家《いへ》の天井に鼠《ねずみ》栖《す》めり、
きしきしと音するは
鑿《のみ》とりて像を彫《きざ》む人
夜《よ》も寝ぬが如《ごと》し。
またその妻と踊りては
廻るひびき
競馬の勢《きほひ》あり。
わが物書く上に
屋根裏の砂ぼこり
はらはらと散るも
彼等いかで知らん。
されど我は思ふ、
我は鼠《ねずみ》と共に栖《す》めるなり、
彼等に食ひ物あれ、
よき温かき巣あれ、
天井に孔《あな》をも開《あ》けて
折折《をりをり》に我を覗《のぞ》けよ。


    賀川豐彦さん

わが心、程《ほど》を踰《こ》えて
高ぶり、他《た》を凌《しの》ぐ時、
何時《いつ》も何時《いつ》も君を憶《おも》ふ。

わが心、消えなんばかり
はかなげに滅入《めい》れば、また
何時《いつ》も何時《いつ》も君を憶《おも》ふ。

つつましく、謙《へりくだ》り、
しかも命と身を投げ出《い》だして
人と真理の愛に強き君、
ああ我が賀川|豐彦《とよひこ》の君。


    人に答へて

時として独《ひとり》を守る。
時として皆と親《したし》む。
おほかたは険《けは》しき方《かた》に
先《ま》づ行《ゆ》きて命傷つく。
こしかたも是《こ》れ、
行《ゆ》く末《すゑ》も是《こ》れ。
許せ、我が斯《か》かる気儘《きまゝ》を。


    晩秋の草

野の秋更けて、露霜《つゆしも》に
打たるものの哀れさよ。
いよいよ赤む蓼《たで》の茎、
黒き実まじるコスモスの花、
さてはまた雑草のうら枯《か》れて
斑《まだら》を作る黄と緑。


    書斎

唯《た》だ一事《ひとこと》の知りたさに
彼《か》れを読み、其《そ》れを読み、
われ知らず夜《よ》を更かし、
取り散らす数数《かずかず》の書の
座を繞《めぐ》る古き巻巻《まきまき》。
客人《まらうど》[#ルビの「まらうど」は底本では「まろうど」]よ、これを見たまへ、
秋の野の臥《ふ》す猪《ゐ》の床《とこ》の
萩《はぎ》の花とも。


    我友

ともに歌へば、歌へば、
よろこび身にぞ余る。
賢きも智を忘れ、
富みたるも財を忘れ、
貧しき我等も労を忘れて、
愛と美と涙の中に
和楽《わらく》する一味《いちみ》の人。

歌は長きも好《よ》し、
悠揚《いうやう》として朗《ほがら》かなるは
天に似よ、海に似よ。
短きは更に好し、
ちらとの微笑《びせう》、端的の叫び。
とにかくに楽し、
ともに歌へば、歌へば。


    恋

わが恋を人問ひ給《たま》ふ。
わが恋を如何《いか》に答へん、
譬《たと》ふれば小《ちさ》き塔なり、
礎《いしずゑ》に二人《ふたり》の命、
真柱《まばしら》に愛を立てつつ、
層《そう》ごとに学と芸術、
汗と血を塗りて固めぬ。
塔は是《こ》れ無極《むきよく》の塔、
更に積み、更に重ねて、
世の風と雨に当らん。
猶《なほ》卑《ひく》し、今立つ所、
猶《なほ》狭し、今見る所、
天《あま》つ日も多くは射《さ》さず、
寒きこと二月の如《ごと》し。
頼めるは、微《かすか》なれども
唯《た》だ一つ内《うち》なる光。


    己《おの》が路《みち》

わが行《ゆ》く路《みち》は常日頃《つねひごろ》
三人《みたり》四人《よたり》とつれだちぬ、
また時として唯《た》だ一人《ひとり》。

一人《ひとり》行《ゆ》く日も華やかに、
三人《みたり》四人《よたり》と行《ゆ》くときは
更にこころの楽《たのし》めり。

我等は選《え》りぬ、己《おの》が路《みち》、
一《ひと》すぢなれど己《おの》が路《みち》、
けはしけれども己《おの》が路《みち》。


    また人に

病みぬる人は思ふこと
身の病《やまひ》をば先《
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