つて来た。
島の人間は奇怪な侵入者、
不思議な放浪者《バガボンド》[#ルビの「バガボンド」は底本では「バカホンド」]だと罵《のゝし》らう。
わたし達は彼等を覚《さま》さねばならない、
彼等を生《せい》の力に溢《あふ》れさせねばならない。
よその街でするやうに、
飛行機と露西亜《ロシア》バレエの調子で
彼等と一所《いつしよ》に踊らねばならない、
此島《このしま》もわたし達の公園の一部である。
何かためらふ
何《なに》かためらふ、内気なる
わが繊弱《かよわ》なるたましひよ、
幼児《をさなご》のごと慄《わなゝ》きて
な言ひそ、死をば避けましと。
正しきに就《つ》け、たましひよ、
戦へ、戦へ、みづからの
しあはせのため、悔ゆるなく、
恨むことなく、勇みあれ。
飽くこと知らぬ口にこそ
世の苦しみも甘からめ。
わがたましひよ、立ち上がり、
生《せい》に勝たんと叫べかし。
真実へ
わが暫《しばら》く立ちて沈吟《ちんぎん》せしは
三筋《みすぢ》ある岐《わか》れ路《みち》の中程《なかほど》なりき。
一つの路《みち》は崎嶇《きく》たる
石山《いしやま》の巓《いたゞき》に攀《よ》ぢ登り、
一つの路《みち》は暗き大野の
扁柏《いとすぎ》の森の奥に迷ひ、
一つの路《みち》は河に沿ひて
平沙《へいしや》の上を滑《すべ》り行《ゆ》けり。
われは幾度《いくたび》か引返さんとしぬ、
来《こ》し方《かた》の道には
人間《にんげん》三月《さんぐわつ》の花開き、
紫の霞《かすみ》、
金色《こんじき》の太陽、
甘き花の香《か》、
柔かきそよ風、
われは唯《た》だ幸ひの中に酔《ゑ》ひしかば。
されど今は行《ゆ》かん、
かの高き石山《いしやま》の彼方《かなた》、
あはれ其処《そこ》にこそ
猶《なほ》我を生かす路《みち》はあらめ。
わが願ふは最早《もはや》安息にあらず、
夢にあらず、思出《おもひで》にあらず、
よしや、足に血は流るとも、
一歩一歩、真実へ近づかん。
森の大樹
ああ森の巨人、
千年の大樹《だいじゆ》よ、
わたしはそなたの前に
一人《ひとり》のつつましい自然崇拝教徒である。
そなたはダビデ王のやうに
勇ましい拳《こぶし》を上げて
地上の赦《ゆる》しがたい
何《な》んの悪を打たうとするのか。
また、そなたはアトラス王が
世界を背中に負つてゐるやうに、
かの青空と太陽とを
両手で支へようとするのか。
そしてまた、そなたは
どうやら、心の奥で、
常に悩み、
常にじつと忍んでゐる。
それがわたしに解《わか》る、
そなたの鬱蒼《うつさう》たる枝葉《えだは》が
休む間《ま》無しに汗を流し、
休む間《ま》無しに戦《わなゝ》くので。
さう思つてそなたを仰ぐと、
希臘《ギリシヤ》闘士の胴のやうな
そなたの逞《たくま》しい幹が
全世界の苦痛の重さを
唯《た》だひとりで背負つて、
永遠の中に立つてゐるやうに見える。
或《ある》時、風と戦つては
そなたの梢《こづゑ》は波のやうに逆立《さかだ》ち、
荒海《あらうみ》の響《ひゞき》を立てて
勝利の歌を揚げ、
また或《ある》時、積む雪に圧《お》されながらも
そなたの目は日光の前に赤く笑つてゐる。
千年の大樹《だいじゆ》よ、
蜉蝣《ふいう》の命を持つ人間のわたしが
どんなにそなたに由《よ》つて
元気づけられることぞ。
わたしはそなたの蔭《かげ》を踏んで思ひ、
そなたの幹を撫《な》でて歌つてゐる。
ああ、願はくは、死後にも、
わたしはそなたの根方《ねがた》に葬られて、
そなたの清らかな樹液《セエヴ》と
隠れた※[#「執/れっか」、137−下−2]《あつ》い涙とを吸ひながら、
更にわたしの地下の
飽くこと知らぬ愛情を続けたい。
なつかしい大樹《だいじゆ》よ、
もう、そなたは森の中に居ない、
常にわたしの魂《たましひ》の上に
爽《さわ》やかな広い蔭《かげ》を投げてゐる。
我は雑草
森の木蔭《こかげ》は日に遠く、
早く涼しくなるままに、
繊弱《かよわ》く低き下草《したくさ》は
葉末《はずゑ》の色の褪《あ》せ初《そ》めぬ。
われは雑草、しかれども
猶《なほ》わが欲を煽《あふ》らまし、
もろ手を延《の》べて遠ざかる
夏の光を追ひなまし。
死なじ、飽くまで生きんとて、
みづから恃《たの》むたましひは
かの大樹《だいじゆ》にもゆづらじな、
われは雑草、しかれども。
子供の踊(唱歌用として)
踊《をどり》、
踊《をどり》、
桃と桜の
咲いたる庭で、
これも花かや、紫に
円《まる》く輪を描《か》く子供の踊《をどり》。
踊《をどり》、
踊《をどり》、
天をさし上げ、
地を踏みしめて、
みんな凛凛《りゝ》しい身の構へ、
物に怖《おそ》れぬ男の踊《をどり》。
踊《をどり》
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