《おちば》と、木枯《こがらし》と、
爛《たゞ》れた傷を見るやうに
一《ひと》すぢ残る赤い路《みち》……
わたしは此処《ここ》へ泣きに来る。


    砂の塔

「砂を掴《つか》んで、日もすがら
砂の塔をば建てる人
惜しくはないか[#「ないか」は底本では「ないが」]、其時《そのとき》が、
さては無益《むやく》な其《その》労が。

しかも両手で掴《つか》めども、
指のひまから砂が洩《も》る、
する、する、すると砂が洩《も》る、
軽《かろ》く、悲しく、砂が洩《も》る。

寄せて、抑《おさ》へて、積み上げて、
抱《かゝ》へた手をば放す時、
砂から出来た砂の塔
直《す》ぐに崩れて砂になる。」

砂の塔をば建てる人
これに答へて呟《つぶや》くは、
「時が惜しくて砂を積む、
命が惜しくて砂を積む。」


    古巣より

空の嵐《あらし》よ、呼ぶ勿《なか》れ、
山を傾け、野を砕き、
所《ところ》定めず行《ゆ》くことは
地に住むわれに堪《た》へ難《がた》し。

野の花の香《か》よ、呼ぶ勿《なか》れ、
若《も》し花の香《か》となるならば
われは刹那《せつな》を香らせて
やがて跡なく消えはてん。

木《こ》の間《ま》の鳥よ、呼ぶ勿《なか》れ、
汝《な》れは固《もと》より羽《はね》ありて
枝より枝に遊びつつ、
花より花に歌ふなり。

すべての物よ、呼ぶ勿《なか》れ、
われは変らぬ囁《さゝや》きを
乏しき声にくり返し
初恋の巣にとどまりぬ。


    人の言葉

善《よ》しや、悪《あ》しやを言ふ人の
稀《まれ》にあるこそ嬉《うれ》しけれ、
ものかずならで隅にある
わが歌のため、我《わ》れのため。

いざ知りたまへ、わが歌は
泣くに代へたるうす笑ひ、
灰に著《き》せたる色硝子《いろがらす》、
死に隣りたる踊《をどり》なり。

また知りたまへ、この我《わ》れは
春と夏とに行《ゆ》き逢《あ》はで、
秋の光を早く吸ひ、
月のごとくに青ざめぬ。


    闇に釣る船
[#地から3字上げ](安成二郎氏の歌集「貧乏と恋と」の序詩)

真黒《まつくろ》な夜《よる》の海で
わたしは一人《ひとり》釣つてゐる。
空には嵐《あらし》が吼《ほ》え、
四方《しはう》には渦が鳴る。

細い竿《さを》の割に
可《か》なり沢山《たくさん》に釣れた。
小さな船の中《なか》七分《しちぶ》通り
光る、光る、銀白《ぎんぱく
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