掛る、
子供の事が又しても……
せはしい日本の日送りも
心ならずに執《と》る筆も、
身の衰へも、わが髪の
早く落ちるも皆子ゆゑ。
子供を忘れ、身を忘れ、
こんな旅寝《たびね》を、はるばると
思ひ立つたは何《なに》ゆゑか。
子をば育《はぐく》む大切な
母のわたしの時間から、
雀《すゞめ》に餌《ゑ》をばやる暇を
偸《ぬす》みに来たは何《なに》ゆゑか。
うつかりと君が言葉に絆《ほだ》されて………
いいえ、いいえ、
みんなわたしの心から………
あれ、雀《すゞめ》が飛んでしまつた。
それはあなたのせゐでした[#「せゐでした」は底本では「せいでした」]。
みんな、みんな、雀《すゞめ》が飛んでしまひました。
あなた、わたしは何《ど》うしても
先に日本へ帰ります。
もう、もう絵なんか描《か》きません。
雀《すゞめ》、雀《すゞめ》、
モンソオ公園の雀《すゞめ》、
そなたに餌《ゑ》をも遣《や》りません。
[#ここで段組終わり]
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[#ページの左右中央から]
冷たい夕飯
(雑詩卅四章)
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[#ここから2段組]
我手の花
我手《わがて》の花は人|染《そ》めず、
みづからの香《か》と、おのが色。
さはれ、盛りの短《みじ》かさよ、
夕《ゆふべ》を待たで萎《しを》れゆく。
我手《わがて》の花は誰《た》れ知らん、
入日《いりひ》の後《のち》に見る如《ごと》き
うすくれなゐを頬《ほ》に残し、
淡き香《か》をもて呼吸《いき》[#ルビの「いき」は底本では「い」]すれど。
我手《わがて》の花は萎《しを》れゆく……
いと小《ささ》やかにつつましき
わが魂《たましひ》の花なれば
萎《しを》れゆくまますべなきか。
一すぢ残る赤い路
藤《ふぢ》とつつじの咲きつづく
四月五月に知り初《そ》めて、
わたしは絶えず此処《ここ》へ来る。
森の木蔭《こかげ》を細《こま》やかに
曲つて昇る赤い路《みち》。
わたしは此処《ここ》で花の香《か》に
恋の吐息の噴《ふ》くを聞き、
広い青葉の翻《かへ》るのに
若い男のさし伸べる
優しい腕の線を見た。
わたしは此処《ここ》で鳥の音《ね》が
胸の拍子に合ふを知り、
花のしづくを美しい
蝶《てふ》と一所《いつしよ》に浴びながら、
甘い木《こ》の実を口にした。
今はあらはな冬である。
霜と、落葉
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