ラタアヌは
汗と塵埃《ほこり》と※[#「執/れっか」、254−下−7]《ねつ》を洗はれて、
その喜びに手を振り、
頭《かしら》を返し踊るもあり。
カツフエのテラスに花咲く
万寿菊《まんじゆぎく》と薔薇《ばら》は
斜《はす》に吹く涼風《すゞかぜ》の拍子に乗りて
そぞろがはしく
ワルツを舞はんとするもあり。
猶《なほ》、そのいみじき
灌奠《ラバシヨン》の余沫《よまつ》は
枝より、屋根より、
はらはらと降らせぬ、
水晶の粒を、
銀の粒を、真珠の粒を。
驟雨《オラアジユ》は過ぎ行《ゆ》く、
爽《さわ》やかに、こころよく。
それを見送るは
祭の列の如《ごと》く楽し。
わがある七《しち》階の家《いへ》も、
わが住む三階の窓より見ゆる
近き四方《しはう》の家家《いへいへ》も、
窓毎《まどごと》に光を受けし人の顔、
顔毎《かほごと》に朱《しゆ》の笑《ゑ》まひ……
巴里の一夜
テアトル・フランセエズ[#「フランセエズ」は底本では「フランセエエ」]の二階目の、
紅《あか》い天鵞絨《びろうど》を張りつめた
看棚《ロオジユ》の中に唯《た》だ二人《ふたり》
君と並べば、いそいそと
跳《をど》る心のおもしろや。
もう幕開《まくあき》の鈴が鳴る。
第一列のバルコンに、
肌の透《す》き照る薄ごろも、
白い孔雀《くじやく》を見るやうに
銀を散らした裳《も》を曳《ひ》いて、
駝鳥《だてう》の羽《はね》のしろ扇、
胸に一《いち》りん白い薔薇《ばら》、
しろいづくめの三人《さんにん》は
マネが描《か》くよな美人づれ、
望遠鏡《めがね》の銃《つゝ》が四方《しはう》から
みな其処《そこ》へ向くめでたさよ。
また三階の右側に、
うす桃色のコルサアジユ、
金《きん》の繍《ぬひ》ある裳《も》を著《つ》けた
華美《はで》な姿の小女《こをんな》が
ほそい首筋、きやしやな腕、
指環《ゆびわ》の星の光る手で
少し伏目に物を読み、
折折《をりをり》あとを振返る
人待顔《ひとまちがほ》の美《うつ》くしさ。
あら厭《いや》、前のバルコンへ、
厚いくちびる、白い目の
アラビヤらしい黒奴《くろんぼ》が
襟も腕《かひな》も指さきも
きらきら光る、おなじよな
黒い女を伴《つ》れて来た。
どしん、どしんと三度程
舞台を叩《たゝ》く音がして、
しづかに揚《あが》る黄金《きん》の幕。
よごれた上衣《うはぎ》、古づ
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