なほ四方《よも》の木を揺《ゆす》る。
わが町の木と屋根と皆黒し、
唯だ疎らに黄なるは
街灯の点のみ。
一台のトラツク遠きに黙し、
誰《た》が家のラヂオか、
濁《だ》みごゑの講演起る。
東の方、遥なる丘の上に、
うす桃色の靄長く引けるは、
東京の明かりならん。
我れ独り屋上の暗きに坐る。
燦爛たる星、
満身には風。
つくづくと天の濶きを見上げて、
つつましき心に、この時、
感謝の涙流る。
「久住山の歌」の序詩
我等近く来るたびに、
久住の山、
雲動き霧馳せて、
雨さへも荒し。
久住の山、
我等の見るは、
頂にあらずば裾の
わづかに一部。
一部なれども、
深むらさきの壁に
天の一方を塞ぎ、
隠れまた現る。
ああ全貌を見ずとも、
久住の山、
大地より卓立して
威容かくの如し。
ねがはくは我等の歌、
云ふ所は短けれども、
久住の山
この中にも在れ。
吉本米子夫人に
日木は伸びたり、
滿洲の荒野も今は
大君の御旗のもと。
よきかな、我友吉本夫人、
かかる世に雄雄しくも
海こえて行き給ふ。
願はくは君に由りて、
その親しさを加へよ、
日満の民。
夫人こそ
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