は黙つてゐる。
それを自分の心臓だと見るわたしは
炭をつぎ[#「つぎ」に傍点]足さうかと思ふ。
いや、誰れが手を温《ぬく》める火でもない、
独り此の寂しい深紅を守らう。
或人に
わたしには問はないで下さい、
「あなたの心の故郷《ふるさと》は」なんて
クリスチヤンじみたことを。
誰れが故郷を持つてゐると云ふのです。
みんな漂泊者である日に、
みんな新世界を探してゐる日に、
過去から離れて、みんな
蒙昧を開拓しようとしてゐる日に。
それよりも見せて下さい、
あなたに鶴嘴を上げる力があるか、
一尺の灌漑用の水でも
あなたの足元の沙から出るか。
〔無題〕
ちび筆に線を引きて
半紙に木瓜の枝を写生し、
赤インクにて花を描《か》く。
末の娘、見て笑ふ、
母の木瓜には刺無し。
〔無題〕
同じ免官者でも
急に言葉が荒くなり、
知事や将校は便衣隊に見える。
校長たちの気の毒さ、
番茶で棋を打つてゐる。
屋上
武蔵野の中、
日の入りて後《のち》
屋上の台に昇る。
わが座は今
わが庭の
最も高き梢と並ぶ。
風、かの白き天の川より降るか、
我れを斜めに吹きて
余勢、
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