かた》
かの塹壕に何を見る。
行けど行けども敵の死屍、
折れ重なれる敵の死屍。

中に一きは哀しきは
学生隊の二百人。
十七八の若さなり、
二十歳《はたち》を出たる顔も無し。

彼等、やさしき母あらん、
その母如何に是れを見ん。
支那の習ひに、美くしき
許嫁《いひなづけ》さへあるならん。

彼等すこしく書を読めり、
世界の事も知りたらん。
国の和平を希《ねが》ひたる
孫中山《そんちゆうざん》の名も知らん。

誰れぞ、彼等を欺きて、
そのうら若き純情に、
善き隣なる日本をば
侮るべしと教へしは。

誰れぞ、彼等を唆《そその》かし、
筆を剣《つるぎ》に代へしめて、
若き命を、此春の
梅に先だち散らせるは。

十九路軍の総司令
蔡廷※[#「金+皆」、第4水準2−91−14]《さいていかい》の愚かさよ、
今日の中《うち》にも亡ぶべき
己れの軍を知らざりき。

江湾鎮の西の方
かの塹壕に何を見る。
泥と血を浴び斃れたる
紅顔の子の二百人。
[#ここから4字下げ]
(右、読売新聞記者安藤覺氏の上海通信を読み感動して作る。)
[#ここで字下げ終わり]


  〔無題〕

白く塗つた椅子を一つ
芝の上
前へ 次へ
全116ページ中83ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング