り。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
げに其声は鈴を振る。
駄馬の鈴ならず、
橇の鈴ならず、
法師の祈る鈴ならず。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
朗朗として澄み昇る。
聴けば唯だ三節《みふし》なれど、
すべてみな金《きん》の韻なり、
盛唐の詩の韻なり。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
その声は喜びに溢る。
促されずして歌ひ、
堪へきれずして歌ひ、
恍惚の絶巓《ぜつてん》に歌ふ。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
なんぞ傍若無人なる。
寸にも足らぬ虫なれど、
今彼れの心に
唯だ歌ありて一切を忘る。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
彼の虫ぞ自らを恃める。
人間の心には気兼あり、
疚《やま》しき所あり、
諂《へつら》ふことさへもあり。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
誰れか今宵その籠を掛けたる。
わが子らの中の
いづれの子のわざならん、
かの※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ランダに掛けたるは。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
猶かの※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ランダより起る。
すでに午前一時、
その硝子には白からん、
栴檀の葉を通す十五夜の月。
りん、りん、りんと鈴虫の声、
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